嶋川センセの知っ得社会科ー女性のためのお仕事相談室ー

女性が働き続ける上での様々な情報を提供し、また仕事上の様々な問題を共に考えます。

2009年03月

前回は親の貧困が子どもにいかに影響するかについて書きました。

親がすべり台社会を滑り落ちると、当然のことながら子どもも共に滑り落ちてしまうということです。

 

貧困層にある世帯の比率は、高福祉国家と言われているスウェーデンとそう違いませんでした。しかし、収入から税金や保険等の社会保障費を支払った後、その世帯がどれだけ消費(医療費も含まれる)に使うことができるか(可処分所得)では、貧困世帯はさらに増加していました。これは日本だけの現象でした。

 

 

今日は、親のセーフティネットについて考えてみましょう。

湯浅誠さんは、滑り落ちないためには、すべり台に階段をつけることが必要だと述べています。

階段はできるだけ段差を少なくし、その分段数が多いほど、落ちたとしてもどこかで停まる筈です。

 

こんな記事を見つけました。(2009.03.08付け朝日新聞)

≪生活保護最多116万人、申請1ヵ月で3割増。≫

ワーキングプア問題に詳しい都留文科大後藤道夫教授の談によると

『失業手当受給者が失業者の2割にとどまり、最後のセーフティネットのはずの生活保護が、最初のセーフティネットになっている。』だそうです。これらは一面でした。さらに社会面に≪ハローワーク→労基署→市役所、失業者「たらい回し」≫という記事もありました。

 

派遣切りで解雇になった場合、どこが離職票を出すか分かっていますか?

派遣労働者と雇用関係にあったのは、実際に働いていた例えばトヨタとか、キャノンではなく、派遣会社です。

派遣会社が離職票を出します。この記事の人(Aさん)は、派遣切りとともに会社の寮を追い出されました。住所がなければ派遣会社からの離職票は届きません。生活できなくなったAさんは雇用保険(失業保険)の手続きのためにハローワークへ行きました。

ハローワークでは「離職票を持ってきてください」と言われます。「まだ会社が出していないのですが…」「では派遣会社に問い合わせてみましょう」とハローワークは会社へ電話。「来週出すと言ってますよ」「その間生活費がないんですが」「それは市役所の仕事ですから市役所で生活保護の手続きをしてください」→

そこでAさんは市役所へ行きます。「離職票がないので失業保険を受けることができません。生活保護の申請をしたいのですが」「生活保護はあなたのように働ける人にはそう簡単には支給できません。あなたには失業保険があるのだから、すぐに離職票をもらうべきです。そちらの方が先決です。離職票をすぐに出してもらうためは、労基署から会社へ言ってもらうのがいいでしょう」→

Aさんは労基署へ。「会社がなかなか離職票を出してくれないので、失業保険が受けられないので困っています。」「失業保険はハローワークの仕事です。ハローワークへ行ってください」。

 

こういう遣り取りが2周続いて、ついにAさんは2日間歩き続けて個人加盟の労働組合に相談。市会議員に付き添われて市役所でようやく生活保護の手続きができました。その時のAさんの所持金200円。

(「ヨカッタ、ヨカッタ」の話しではありません。なんで200円になるまでに手を打たなかったの?と思う人もいるでしょうね。先日TVでアメリカ映画<しあわせのかたち>を見ました。これは努力の結果のサクセスストーリーでしたが、野宿者になる過程が描かれていて、それは実に簡単になってしますのだということがよく分かる映画でした。)

 

何が問題なのでしょうか?

いくつか挙げることができます。

まず生活保護費は税金です。本来労働者Aさんは雇用保険から給付を受けるべきなのです。なぜ即生活保護費なのでしょうか?お金の出所が違うのではありませんか?

これが私の最初の疑問です。

 

Aさんはトヨタで働いていました。トヨタから派遣会社へAさんの雇用保険費は支払われています(筈です。経費節減のためこの手続きをしていない企業もあります)

 

都留文科大の後藤教授が「2割の人しか失業保険を受けとっていない」と言ってますが、雇用保険はどこに積み立てられているのでしょうか?

 

それは厚労省です。雇用保険は失業保険だけでなく、育児・介護休業中の補償や教育訓練費も含まれています。その中で最大のものは失業手当です。この雇用保険は労使が負担しています。労働者の総賃金額の千分の12を労使で折半し、さらに国から税金(国庫負担金)が投入されます。しかし、この雇用保険積立金は相当な額に達しており、国の財政が厳しい中、国庫負担金を削減する案も浮上しています。しかし、Aさんのように本来なら給付されるべき労働者に支払われていないことが、剰余金の裏事情にあるのならそれは筋が違いますし、これは前回のブログからも十分に推察できます。

 

ではどのような階段があるのかを見てみましょう。

まず雇用保険です。これが給付されるためには随分といろんな条件をクリアしなければなりません。住所がなければ一切の手続きができません。Aさんのような人にはこれが最大のネックです。

このブログを書くためにネットでいろいろ検索していましたら、「社会保険料を安くする方法」という広告を見つけました。Aさんは住所と離職票がネックでしたが、会社が雇用保険に入っていないことも多々あります。給料明細で年金や医療保険や雇用保険が引かれているか確認してください。医療保険はすぐに使いますから、会社が手続きをしているかどうかすぐに分かりますが、年金とか失業手当はその時まで分かりませんものね。

 

次の階段は、失業手当が給付されるまでの生活資金を貸し出すことです。まとまった生活資金を借りることができればアパートを借りることができます。ネットカフェは月額に換算すると高くつきますし、洗濯や風呂、炊事等もできませんし、別途お金が必要です。第一安眠できません。

この前提として安価で良質な公営住宅が用意されていることも大切です。これは派遣切りになった人たちだけの問題ではありません。日本の住宅政策は持ち家を強く薦めています。家を所有することこそ自己責任というわけです。一生家を持つことだけを目標として働くなんて悲しいです。ローンを払い終わったらマンションの建て替えの時期になった、なんていうことも充分考えられます。良質で安価な住宅を提供する政策は、誰にでも必要ですが、この段階では望みすぎであり、実現不可能の感があるので、ここではこれ以上の深入りはしないことにしますが、いつか各国の住宅政策についても調べてみたいと思います。

 

生活資金から外れました。生活資金に戻ります。

政府も自治体もいろいろと制度を用意しているようですが、とても手続きが面倒で使えないものばかりです。

一例として、各自治体には社会福祉協議会という組織があります。そこには貧困世帯向けの「生活福祉資金貸し付け」と「緊急小口支援資金」と「離職者支援資金」が用意されています。しかし、面倒な手続きのため、ある社会福祉協議会では年間相談件数789件のうち、実際に貸付をしたのは10件足らずだったそうです。

 

これら制度の前にまず何よりも「相談窓口の一本化」をしなければなりません。ハローワークと自治体の生活保護担当が机を並べて相談に乗っていたら、バス代にもこと欠いたAさんはたらい回しされた3箇所を徒歩で回る必要はなかったはずです。随分とお腹が空いて、惨めな気持になられたことでしょう。東京のどこかの区役所でこれを実施しているのをTVで見たことがあります。

 

以上が日本のセーフティネットでした。日本にも、セーフティネットの制度があるのは確かです。しかし、実際には使えない制度であったり、縦割り行政のために機能マヒに陥ったりしているというのが現状です。これでは無いのも同然です。イギリスでは生活保護は日本よりは簡単に給付されます。

 

でも今回の派遣切りの大大前提に、経営者のなんでもありの労働者派遣法を見直さなければなりません。

 

次回は、滑り落ちそうになってもどうにか階段で踏みとどまることが出来た労働者とは、いかなる制度に支えられているのかを、イギリスの例で見ていきます。

では今日はここまで。

書かなければならないことは沢山あるのに、事実が余りにも厳しくて、書くという行為そのものに躊躇してしまいます。

 

先々週の金曜日に「イスラエルが年末から22日間にわたってパレスティナのガザ地区を攻撃し、1300人以上の死者を含む6,700人以上の死傷者を出した爪痕」という題で、ジャーナリストの志葉玲さんが話されるというので聞きに行きました。

その3日後、アカデミー賞の発表がありました。なぜ「おくりびと」が賞に輝いたかが、ここで繋がりました。本命とされていたのはイスラエル映画でした。1982年にレバノン・ベイルートの難民キャンプで起きたキリスト教徒軍によるパレスチナ難民の大虐殺を描いたドキュメンタリー・アニメーションです。「おくりびと」の主役「もっくん」でさえ「イスラエル映画が本命と思っていた」と語っていました。勿論「おくりびと」も素晴らしい映画でしょう(私は見てません)が、アカデミー賞の選考委員にはユダヤ人が結構いるとかで、今回のガザ攻撃と重なるこの映画を避けたというのが裏に働いたと思ったのです。イスラエルのガザ侵攻については、続きを読むに入れました。

 

では、このブログの本筋、労働問題に戻りましょう。

前回に引き続き日本の貧困についてです。「もし教育費が無料であったなら」という問いで前回のブログを終りました。

ではすべり台社会ではない社会というのを今日は考えてみましょう。

湯浅さんのすべり台社会に対して、すべり台でない社会とはどのような社会のことでしょうか。

 

ここに愕然とする数字があります。子どものいる世帯の貧困率は、先進国の中で日本が特に高い率ではありません。2000年の≪子どもの貧困率≫によると、OECDの平均が17%とすると、日本は11%くらいです。教育レベルが高いとされているデンマーク、ノルウェー、スウェーデンとそう変わらない数字です。フランスは25%近いし、ドイツも17%ほどの数字です。

 

ところが、この貧困率が次のような操作の結果さらに上がる国が先進国の中でたった一カ国だけあります。それが日本なのです。

操作とは、≪収入から税金や社会保険料(医療保険や年金の掛け金等)を引いた額に、児童手当や年金(教育費がかかる子どものいる親所帯が年金受給者であることはまずないから、年金は問題外)を足す≫という計算です。

 

親の収入段階で貧困層であったとしても、日本と同じくらいの貧困率の上記の国々は、社会給付や税方式によって、貧困率が下がっています。再度強調しますが、日本だけが貧困率が上がっているのです。

 

では、具体的に児童手当についてみてみましょう。

児童手当には、日本は親の所得に制限が設けられています。所得制限をクリヤーしても、一番目と二番目の子どもについては3歳までは月1万円(12万円)、3歳〜12歳は5千円(年6万円)。三番目の子どもは12歳まで1万円です。

 

日本の出生率が約1.7人ですから、殆どの家庭は5千円程度支給されている計算になります。義務教育年齢の子育て費用の必要経費だけでも年間200万円との推計があるので、これでは全く足らないですね。

 

イギリス、ドイツ、フランス、スウェーデンは、まず親の所得制限がありません。親の所得が高くても等しく給付されるということです。(この場合、税率もカウントしなければいけませんね。

 

高所得上位20%の人が負担する直接税と社会保険料は、フランス55.3(7.0)% ドイツ44.6(3.3)%、スウェーデン41.2(6.1)%、イギリス49.5(2.5)%ですが、日本は39.3(7.9)%です。 ( )内の数字は所得下位20%が負担する率です。日本は高所得者の負担率が低く、低所得の人の負担率が高いことがわかります。)

 

児童手当は、

イギリスは16歳まで支給。年間20.4万円、二番目以降は14.4万円。

ドイツは18歳未満まで。一番目から三番目まで27.6万円、四番目以降は32.4万円。

フランスは20歳未満まで。二番目から支給で、21.6万円。三番目以降27.6万円で、これに11歳〜15歳は6万円の加算、16歳以上は10.8万円の加算が付く。

スウェーデンは16歳未満まで。一番目から支給され、子ども一人につき20.4万円、二人以上はこれに2.445.6万円の加算が付く。

 

さらにこれらの国は、この児童手当のほかに、子どものいる貧困世帯に税額控除制度を設けており、この児童手当と税額控除を合わせてかなりの額の支給をしています。

これらの結果、貧困率25%のフランスは社会保障によって6%に、デンマーク、ノルウェー、スウェーデンは2〜4%に、日本は12%14%にアップです。日本が如何に子どもに費用を使っていないかが分かりますね。

 

テーマに即して言えば、日本は賃金の格差があるのに子どもへのフォローが少ない。子育ての費用は最低限、等しくかかるから、低所得の家庭ほど消費支出は高くなる、ということです。これは自明のことですが、各国はこの陥穽を避ける努力をして、子育てをその家庭のことではなく、程度の差はありますが、社会的なことだと考えているのです。

 

すべり台社会では、親の失業や低賃金が子どもの問題に直結します。給食費(月額4千円)が払えない、遠足や修学旅行に行けない、もっと切実な問題として、保険証がないから医者にかかれない、高校や大学へ進学できない等です。

 

親の貧困は子どもに連鎖し、子どももまた貧困に陥る率が高いという数字も出ています。

親がすべり台を滑り落ちないために何が必要かを次回に見ていきます。

では今日はここまで。

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