4月末から風邪をこじらせて、咳が止まりません。白河法皇が「賀茂河の水、双六の賽、山法師、是ぞわが心にかなわぬもの」と嘆いたとか(平家物語第一巻)。咳も加えて貰いたいわ。
在職中、試験監督のときが最も気を遣いました。一所懸命、脳みそを総動員して問題と向かい合っている生徒の邪魔だけはしたくなかったからです。

で、ままならぬ連休をうだうだと家で過ごした私ですが、今まで、ゴールデンウィークの、ゴールデンという言葉に特に違和感も持たずに働いてきました。でも、最近は「非正規の人の賃金が減る」と思うようになりました。派遣で、事務職で働いているシングルマザーの卒業生の顔が浮かびます。

労働者派遣法の見直しとか、「残業ゼロ法案」とか、政財界の人は真面目に「労働者も人間である」と考えているのでしょうか?

今回のブログの内容は、3月30日の続きです。3月30日の内容は、3月29日に大阪であった「ハローワーク雇い止め裁判を支援する集い」で、3人の元原告たちの話の紹介でした。今回は、この集会の主人公である原告の話です。

彼女(以下、Tさん)が提訴したのは2年前でしたが、おおっぴらにこの裁判を語れるようになったのはごく最近のことです。だから具体的にはこのブログでも取り上げて来ませんでした。

その流れが変わったのは、弁護士が腹を括ったからです。なかなかの物騒なもの言いですが、セクシャルハラスメント(以下、セクハラ)の二次被害が絡むややこしいケースだからです。

事件は2009年、原告Tさんが9年間勤務していた大阪府下のハローワーク(以下、HW)を雇い止めにされたことが原因です。原告Tさんは、上司からセクハラを受けたと、同じ職場の同じ非正規雇用の女性同僚から相談を受けました。このセクハラ事件は問題となり、その後示談となりました。そして、セクハラをした上司は懲戒処分を受けました。しかし、セクハラを受けた当事者の傷は深く、その後もずっとPTSD(心的外傷後ストレス傷害)に苦しむことになりました。TさんがTさん自体の「雇い止め」裁判のことを公にする、例えばマスコミに話すと、このことを見聞きしたセクハラの被害者のPTSDがさらに深くなるかもしれないことから、なかなか公に出来ませんでした。
しかし、このブログで書いている男女賃金差別裁判で闘った原告たちは、マスコミへ訴えることによって、裁判官へ「ある女性が訴えている個人的なことがら」ではなく、全女性の問題であるとすることで、多くの支援を受けて闘ってきました。

セクハラ被害者がさらに二次被害で苦しむかもしれないことを考えて、歯切れの悪い支援体制でスタートしたのです。しかし、そもそもはセクハラをした上司が悪いのであって、原告Tさんが裁判で十分に闘えないのはどう考えても納得できないと、弁護団が腹を括られたのです。セクハラに苦しむ女性が多くいることを知る弁護士にすれば、複雑な立場です。だから2年後の今年の3月29日に、ようやく「支援集会」を開くことが出来ました。

HW裁判の原告Tさんは、このセクハラを受けた同僚から相談を受けていました。Tさんは、この被害同僚に代わって上司と話をするなどして支えます。ここから、Tさんに対する嫌がらせが始まります。そして、毎年雇用されていた契約がこの年度最後の3月29日に「更新しません」と通告されたのです。
3月29日という日は、Tさんにとって忌まわしい記念すべき日なのです。(上司は、子どもを抱えたシングルマザーのTさんの明日からの生活をどのように考えていたのでしょうか?路頭に迷うかもしれないとは思わなかったでしょうか。)だから、3月29日という日に公に支援の集いをしたということは、Tさんにとって感慨深いものであったのです。
彼女は非常に優秀な相談員でした。「優秀」というのは、裁判で原告側が主張する言葉だし、被告は「普通、劣っていた」と表現する抽象的な概念です。目に見えないものを論争するのはなかなか難しいことなので、彼女がどれくらい優秀であったかは、弁護士によって証拠が提出されています。被告はHWなのですが、HWは国の機関なので、Tさんは国を相手取って裁判を起こしたことになります。常時被告の弁護士は5人、全て税金が投入されています。この税金分を考えれば、Tさんを継続雇用しておいた方が安くつくのではと思っています。多分、この裁判は最高裁まで行くでしょう。最終的に、国が弁護士に支払った額を情報公開請求して知りたいと思っています。これも特定秘密になったりして、永久に謎かも。

今まで8回の契約更新をしてきたHWが、Tさんに「来年から来て貰わなくて結構」と告げるには、何かのきっかけを利用しなければなりません。関係のある記事がありますので、ちょっとだけ紹介します。

≪ハローワーク職員1200人を年度末雇い止めー公募方式が拍車かける官製ワーキングプアの雇用不安≫
(「連合通信・隔日版」2014220日付No.8814
 ハローワーク(公共職業安定所)の内部で、今年も大量の非常勤職員が雇い止めされようとしている。特に問題なのは、業務があるにもかかわらず3年を超える労働者を一律に退職させて「公募」にかける事態が想定されていることだ。公募で再び採用されるとは限らず、職場では「雇用不安をあおるだけ。これでは業務に必要な経験と専門性を維持できない」と、困惑が広がっている。

Tさんは、2011年3月29日に雇い止め宣告を受けましたが、以前から、上司に「あなたは必要な人材です」「あなたはよくやってくれている。あとは資格を得ることやね」と言われていました。Tさんは、30万円を投じてキャリアコンサルタントの資格を取得します。当時の彼女の月収は15万円、どれほどの犠牲の元に彼女が学校に通ったかが分かります。
HWの正規職員の場合は、正規なんだから資格を取得する必要はありません。HWの組織を知らない者からすれば、キャリアコンサルタントの資格とは、非正規職員が雇用継続を願って独自で資金を投入して取得するものでしかないように思えます。必要ならば、正規職員も全員資格を取得するべきです。タクシー運転手が運転免許証が必要なように。

「キャリアコンサルタント」、私には聴き慣れない言葉です。官僚の天下りのために作った資格ではないかと思います。Tさんに確認すると、研修内容は、必ずしも質が高いようではありません。講師によっては、女性差別的な発言があったとか。Tさんは、雇用継続を願って、HWの試験を受けます。そして不採用になりました。

HW即ち国の言い分は以下です。

*Tさんの雇い止めとセクハラ被害者の支援とは関係ない。

*不採用は、Tさんよりも適正と能力を有するAさんがいたからである。

*Tさんが応募した職は、Tさんが今まで経験してきた仕事内容と異なり、相談窓口業務だから、Aさんの方が経験がある。


使用者は強いですね。採用試験の内容、経緯、結果に至るまでのあらゆる情報を原告Tさんは知ることができません。Tさんではなく、採用されたのはAさん。Aさんは「相談窓口経験者である」からとHW側は言っていますが、Tさんも相談窓口業務だったのです。これに関しては、元同僚(正職員)が「Tさんは相談業務だった」と証言をしてくれています。また、HWに求職に来た人たちからのお礼状を何通もTさんは持っています。とても丁寧な親身になっての対応だったことが手紙の内容から伺えます。お礼状を貰っているということは、相談窓口業務をしていたからです。Tさんは、HWで働く以前の経験を活かして、職場の研修の講師もしています。受講者は同じ職場の正規職員も含まれています。優秀でない人が、職場の研修担当を任されるでしょうか?

個々に反論はできますが、HW側が不採用の全ての情報を握っているから、そこを切り崩すのは至難の業です。今まで、非正規労働者が雇い止めになったことで争い、最終の上級審で、非正規労働者が勝った判決は一つもありません。


Tさんのような例は多々あるでしょう。Tさんが裁判で争う決断をした理由は、まずは個人的なことが発端ですが、彼女はこうも述べています。
「これ以上使い捨てにしないで!ハローワークで働いてきた非常勤職員が、こんなにも理不尽に簡単にあっけなく職を奪われる現実を知ってほしい。」

非正規で働く、それも家計を主として支えている女性卒業生の顔が重なります。

では、今日はここまで。